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献金『一億円』|娘が闘った9年の裁判記録
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献金『一億円』|娘が闘った9年の裁判記録

公開:2025/05/19

更新:2025/05/19

判例奇譚編集部

宗教団体に1億円以上もの献金!娘は返還を求め裁判を起こすも、86歳の母は「今後一切請求しない」という念書にサイン済み。高齢の母、巨額の献金、不可解な念書…娘の裁判の行方はいかに?

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

母の異変

母の異変に気づいたのはいつからだっただろう。

86歳になる母は、父を亡くしてからめっきり元気をなくしていた。姉の離婚や、祖母の自殺など、私たち家族には辛い出来事が続いていたけれど、特に父の死は母にとって大きな打撃だったようだ。

そんな母を心配していた矢先、母はとある教会に通い始めた。最初は、新しいコミュニティに属することで、少しでも元気になればいいと思っていた。

この時はまだ、長く過酷な闘いが始まることを知る由もなかった。

崩れゆく日常

母は通い始めた教会で、少しずつその教えに陶然とした。日に日に深まる教会の教えは、まもなくして母の心を支配し、生活の全てを侵食していった。

「お母さん、最近様子がおかしいよ。その教会、大丈夫なの?」

と、何度か気にかける私の声に、

「大丈夫よ。ここで救われるの」

ただただ母は、そう繰り返すだけだった。

そしてある日、母から信じられない言葉を聞かされた。

「お金…教会に…」

私の心は、恐怖で凍りついた。あの日から、私の日常も少しずつ崩れていくのを感じた。

1億円と念書

詳しく話を聞いてみると、なんと母は総額1億円以上もの献金をしていたことが発覚。自宅までも売却し、多額のお金を教会に渡していたのだ。

「お母さん、一体何を考えているの!?」

私の悲しさと怒りは、母には届かなかった。

後日、母は教会の信者であるユウキに、娘である私に献金の事実を話したことを伝えたところ、ユウキは将来返金の請求をされることを懸念し、とある念書を画策したという。
その念書は、献金の返還請求をしないという内容だった。

母はユウキに言われるがままサインをしていた。まるで、洗脳されているようだった。
母から献金の事実を聞いてから、まだ数ヶ月しか経っていない。もう何年も前の話のように重く、忘れ去りたい気持ちでいっぱいだった。

母の闘い

母は、自分が騙されていたことに少しずつ気づき始めた。
そして、自分の意思に反して多額の献金をさせられたと確信し、教会とユウキを相手に裁判を起こした。

私は母を支え、共に闘うことを決意した。
しかし、裁判は圧倒的に不利なものだった。教会側は母が自らの意思で献金したと主張し、念書の存在も私たちから希望を奪っていった。

母の死と私の覚悟

厳しい裁判が続く中、母は静かに息を引き取った。
それでも私は、母のいない法廷で涙をこらえ、闘いを続けることを誓った。母の闘いは、私の闘いになった。母の告白からもう6年も経つ。まだ何も終わっていなかった。

上告の先に

一審、二審ともに退けられた私たちの悲痛な訴え。それでも、私は諦めなかった。母の無念を晴らすため、私は最高裁判所に上告した。
最高裁判所からの判決は2年後の夏だった。

「これまでの判決の一部を破棄する。もう一度、高等裁判所で審理をやり直すこと。」

ついに見えた。長いトンネルの先にある一筋の光。

真実の声と和解

最高裁判決を受け、再び高等裁判所での審理が始まった。
再審となった高等裁判所には、証人の元信者のアヤさんの姿が。彼女は勇気を出して当時の状況を証言してくれた。

「信者たちはマミさんに献金を迫り、献金しないと不幸になると不安をあおっていました。」

アヤさんの証言は、法廷に大きな衝撃を与えた。
そして、高等裁判所は、教会の勧誘行為が違法であったと認め、損害賠償の支払いを命じた。教会は控訴も検討したが、最終的に私と和解した。

未来へ

約9年の闘いに、ようやく終止符が打たれた。
しかし、和解金を受け取ったところで、母が帰ってくるわけではない。

でも、私はこの闘いを通して、大切なものを得ることができた。それは、「正義」という揺るぎない信念だ。私はこの信念を胸に、力強く生きていく。

オジサンの感想

本人の意思で契約書や念書にサインをしてしまっていたら諦めてしまうことも多いと思うが、娘さんの頑張りが報われましたね。ただ、これだけの長い期間諦めずに戦うことをほとんどの人は選択しなそうなので、泣き寝入りもありそうですね。