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「電車賃が高すぎる」住民が起こした裁判の行方
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「電車賃が高すぎる」住民が起こした裁判の行方

公開:2025/05/19

更新:2025/05/19

判例奇譚編集部

関東を走る首都圏鉄道、その高すぎる運賃に立ち上がったサトウさん親子。住民の声を国に届けようと裁判を起こすが、立ちはだかる「原告適格」の壁。親子が提出した証拠とは?そして、裁判所の結論は…?

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

長年の悩み

首都圏を走る私営鉄道。(以下『首都圏鉄道』と呼ぶ。)
通勤や通学で利用する人々にとって、その運賃の高さは長年の悩みの種でした。

ある日、鉄道沿線の住民、サトウイチロウさんとその息子、ケンタさんは立ち上がります。

「このままではいけない!声を上げなければ!」

親子の主張

サトウさん親子は、鉄道の運賃を認可した国土交通大臣を相手に裁判を起こしました。
訴訟の内容は、10年前に適用された運賃値上げの認可の取り消しを求めるものでした。彼らの主張は明確です。

「首都圏鉄道の運賃は、鉄道事業法で定められた『能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの』を超えていて高すぎる!この値上げは違法だ!」

息子のケンタさんは当時大学生で、毎日、首都圏鉄道を使って自宅の最寄り駅から大学の最寄り駅まで通っていました。高額な運賃は家計に大きな負担となっていたのです。
ケンタさんの父、イチロウさんは、首都圏鉄道を利用する機会は少なかったものの、ケンタさんの負担、そして他の住民も同じように苦しんでいることを考えると、この状況を黙って見過ごすことができませんでした。

書店や自身の職場へ行く際にも首都圏鉄道を利用するイチロウさんは、この運賃の高さが地域住民の生活を圧迫していることを強く感じていました。

本当に困っている?

裁判が始まると、被告側はサトウさん親子に対し、原告としての適格性について鋭い反論を突きつけます。

「あなたたちには、そもそも裁判を起こす資格、つまり『原告適格』があると言えるのですか? 運賃の値上げによって、あなたたちが直接的かつ著しい不利益を被っていると言える証拠はあるのですか?」

【原告適格】とは

一般的には『ある行政処分により、自分が直接不利益を被り、裁判を起こす資格があること』を指す。

被告は、ケンタさんが裁判期間中に大学を卒業し、都内の会社に就職、会社の寮に住むようになったことを指摘。

「ケンタさんは、もう首都圏鉄道を通勤で使う必要がなくなったのだから、運賃が高くても自身は不利益を被っていないのでは?」

週末に実家に戻ったり、家業を手伝ったりするために、月に4~8回程度首都圏鉄道を利用しているとはいえ、それは日常的な利用とは言えないと主張しました。

「イチロウさんも、書店や職場に行くためにたまに首都圏鉄道を使う程度では、運賃によって大きな不利益を被っているとは言えないのでは?」

イチロウさんに対しても、首都圏鉄道を利用する頻度が少ないことに疑問を呈しました。

親子の反撃

ですが、サトウさん親子は諦めません。

「確かにケンタは大学を卒業しましたが、裁判を起こした当時は毎日首都圏鉄道を利用し、高い運賃に苦しんでいました。裁判の結果は過去に遡って効力が発生するのですから、ケンタには原告適格があるはずです!」

と反論。さらに、

「現在は、ケンタも寮での生活を終え、自宅に住んでいます。会社に通うために、再び首都圏鉄道を使うようになりました!新しい定期券も購入しています!」

と続け、ケンタさんが新たに定期券を購入し通勤に利用している証拠、引っ越し代金の領収書、下水道料金の納付証明書などを提出しました。

門前払い

サトウさん親子の必死の訴えは虚しく、提出した書類はすべて、証拠不十分と判断されました。

裁判所は、1ヶ月定期券の有効期限内に6ヶ月定期券が購入されている点、引っ越し代金領収書の内容が曖昧な点、公共料金の支払い納付書が居住の確証にならない点、陳述書の通勤時間と列車ダイヤの不一致などを指摘。

イチロウさんについても、息子ケンタさんの運賃負担だけでは、イチロウさん自身が日常的に首都圏鉄道を利用しているとは言えず、原告適格は認められないと結論づけました。

こうして、サトウさん親子の訴えは、議論のテーブルにすら付くこともなく門前払いされてしまったのです。
仮に、原告適格があったとして、サトウさん親子に勝機の道はあったのでしょうか?

オジサンの感想

サトウ親子だけで裁判を起こすよりも、住民の署名を集めて臨んだ方がよかったかもしれませんな。
「原告適格」がないと誰でも簡単に嫌がらせで裁判を起こすことができてしまいそうなので、とても重要なものだな。