
- 民事裁判
僕が会社を訴えた理由 ~元営業マンの告白~
「もう限界だ…」 そう呟きながら、僕は会社を後にした。 真面目に働いていたはずなのに、上司からの度重なる暴言、嫌がらせ。そして、積み上げた努力を踏みにじるような仕打ち…。 耐えられなくなった僕は、ついに会社を訴える決断をしたんだ。 これは、うつ病を発症し、会社を去らざるを得なかった元営業マンである僕が、経験した裁判の記録だ。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
裁判官の視点
皆さんこんにちは。私は、この事件を担当することになった裁判官です。
法廷では、原告である元営業マンの方と、被告である会社側の言い分をしっかりと聞き、証拠に基づいて法律を適用し、公平な判決を下すことが私の使命です。
この事件は、いわゆる「パワハラ」が争点となっています。
パワハラとは、職場におけるパワーハラスメントの略で、同じ職場で働く者に対して、立場上の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・肉体的苦痛を与える行為をいいます。
それでは、この事件では、どのようなやり取りが繰り広げられたのか、具体的に見ていきましょう。
飛び込み営業の果てに…
原告は、高収入を目指して被告会社に転職し、宝塚支店の営業開発部に配属されました。そこは、土地活用を提案する飛び込み営業が中心の厳しい職場でした。
そんな中、原告は大きな契約を2件も獲得します。努力が実を結んだ瞬間でした。
しかし、喜びも束の間、原告を待ち受けていたのは、上司である被告Yからの信じられない仕打ちだったのです。
君はもういらない
原告は、契約を獲得した顧客とのトラブルをきっかけに、被告Yから担当を外されてしまいます。
「契約を取った後の業務も勉強したい」
原告は被告Yに訴えましたが、
「そんな考え自体をいう時点で任せられない」
「このまま着工までいられると思うなよ」
と、冷たく突き放されたと言います。
被告Yは、原告が顧客との契約締結の席への同席を希望した際にも、
「お前の席はない」
と、言い放ちます。
さらに、原告が資料を見たいと頼んでも、
「無理だと分かって言っているだろう」
と、まともに取り合おうとしませんでした。
誰が印鑑代を払った?
原告は、被告Yから顧客名の印鑑を買ってくるよう指示され、自腹で購入しました。
「自分の担当案件なのでお金は要らない」
そう被告Yに伝えたにもかかわらず、被告Yは執拗に金額を尋ね、原告から金額を聞き出すと、しぶしぶ支払ったと言います。
そして、被告Yは、上司であるA支店長に対し、
「原告に印鑑を買わされましたー」
と、笑い話にしたそうです。
この一件で原告はA支店長から強く叱責されてしまいました。
深夜0時の呼び出し
心身ともに疲弊していた原告は、ある日、被告Yに仕事の悩みを相談しました。
しかし、被告Yは原告を会社の駐車場に連れていくと、深夜0時過ぎまで、
「お前は営業センスがない」
「だから退職を考えた方がよい」
と、言い続けました。
原告は、被告Yから執拗に退職を迫られ、精神的に追い詰められていったのです。
僕はガン細胞なのか?
原告は、心身の不調が改善しないため、精神科を受診し、「うつ病」と診断されました。
しかし、被告Yは、そんな原告に対し、
「お前みたいなガンウィルスがいると会社の雰囲気が悪くなる」
「みんなにうつるから直行直帰で仕事をするように」
と、信じられない言葉を浴びせたのです。
原告は、被告Yから度重なる暴言や嫌がらせを受け、精神的に追い詰められ、会社に行くことができなくなってしまいました。
裁判官としての所感
ここまで、原告の主張を中心に見てきました。
原告の訴えを聞く限り、被告Yの言動は業務指導の範囲を逸脱しており、原告に対する嫌がらせ、いじめ、あるいは過大な要求と捉えざるを得ません。
しかし、本当にそう断言できるのでしょうか?
次回は、被告側の主張を詳しく見ていき、多角的にこの事件を分析していきたいと思います。
会社にとって優秀な社員とは?
前回は、元営業マンである原告の主張を伺いました。彼は上司である被告Yから、度重なる暴言や嫌がらせを受けたと訴えています。
しかし、物事には必ず両方の側面があります。
今回は、被告である会社側の主張に耳を傾け、この事件をより深く理解していきましょう。
会社側の言い分
被告会社は、原告の訴えに対し、次のように反論しました。
「当社では、パワハラ防止のため、就業規則で明確に禁止事項を定め、相談窓口も設置しています。また、社員向けに研修も行っています」
「原告に対して厳しい指導をしたことは事実ですが、それはすべて原告の成長を願ってのことでした」
「原告は、家庭の問題で悩んでおり、それが体調不良の原因である可能性も否定できません」
証言台に立った人々
裁判では、原告・被告だけでなく、当時の状況を知る関係者からの証言も重要になります。
原告の同僚だった社員は、
「被告Yは、言葉遣いが少し乱暴なところがありました」
「原告を辞めさせようと仕向けているように感じたこともありました」
と証言しました。
一方で、別の同僚は、
「被告Yから厳しい指導を受けることもありましたが、私はパワハラとは感じていませんでした」
と、異なる見解を示しました。
難しい判断
これらの証言や証拠を総合的に判断すると、被告Yの言動には、確かに配慮に欠ける部分があったことは否定できません。
しかし、原告の主張するような悪質なパワハラがあったと断定するには、証拠が不十分と言わざるを得ません。
営業成績 vs メンタルヘルス
この事件を通して、私は改めて「企業にとって本当に大切なものとは何か」を考えさせられました。
高い営業成績を上げることも重要ですが、社員一人ひとりのメンタルヘルスを守ること、働きやすい環境を作ることも同じくらい重要なのではないでしょうか。
そして判決へ
私は、これまで審理で明らかになった事実、そして法律に基づき、慎重に検討を重ねました。
原告の訴えは、聞き捨てならないものでした。
しかし、被告会社にも、パワハラを防止するための取り組みが見られました。
そこで私は、原告の訴えを一部認めつつも、被告会社にも一定の配慮を示した判決を下すことにしました。
具体的には、被告Yの言動は、業務指導の範囲を逸脱したパワハラにあたると認め、被告会社に対し、原告への慰謝料の支払いを命じました。
判決:原告一部勝訴
裁判の結果、原告の訴えは一部認められました。
被告Yの言動は、業務指導の範囲を逸脱したパワハラと認定され、被告会社には原告への慰謝料支払いが命じられました。
しかし、原告が請求した損害賠償の全額が認められたわけではありません。
裁判所は、被告会社がパワハラ防止のための取り組みを行っていたこと、原告の体調不良の原因が家庭の問題にもあった可能性を考慮し、このような判決を下しました。
オジサンの感想

そして、企業は、社員の成長と健康、その両方をどのように守っていくべきなのか。この事件をきっかけに、一人ひとりが、より良い職場環境、そして社会の実現に向けて、真剣に考えていかなければならない。