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見過ごされたSOS~学校が奪った少女の未来~
  • 民事裁判

見過ごされたSOS~学校が奪った少女の未来~

公開:2025/09/29

更新:2025/09/29

判例奇譚編集部

愛娘Aさんをいじめによる自死で失った母親、原告。深い悲しみと、学校側の対応への不信感から、彼女は学校法人Y学園とその関係者を相手に、長い裁判へと踏み出しました。本稿では、判例に基づき、AさんがY中学で経験した壮絶ないじめ、学校側の不十分な対応、そして裁判における双方の主張と裁判所の詳細な判断を、ストーリー形式で丁寧に紐解いていきます。

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

幼少期から抱えていた心の傷とY中学での苦しみ

Aさんは幼少期、両親の離婚や小学校時代の男性教諭からの嫌がらせといった経験を抱えていました。日本に帰国後も、小学校で「外人」と呼ばれたり、ランドセルに落書きをされたりするなど、辛い思いをしていました。そんなAさんにとって、Y中学での生活は更なる苦難の連続でした。


Aさんは、その活発な性格とハーフであるという容姿から、クラスで目立つ存在でした。しかし、それは同時に、一部の生徒から妬みや反感を買う原因にもなってしまったのです。


いじめグループの形成
当初はクラスメイトと良好な関係を築いていたAさんでしたが、些細な出来事をきっかけに、S1、S2、S3、S4、S5、S6の6名(以下「本件6名」)から疎まれ、無視や悪口が始まりました。


エスカレートするいじめ
無視や悪口は次第にエスカレート。Aさんは、「ウザイ」「キモイ」「死ね」といった暴言を浴びせられるだけでなく、「天然パーマ」「眉毛が太い」「デブ」など、容姿や体臭を執拗に攻撃されるようになりました。


執拗な嫌がらせ
Aさんの持ち物は隠されたり、破損させられたりしました。机の中にチョークの粉を入れられたり、靴の中に画鋲を敷き詰められるなど、嫌がらせは陰湿さを増していきました。


見て見ぬふりをする担任
Aさんは担任のY3教諭に助けを求めましたが、Y3教諭は具体的な対応を取らず、いじめは放置されました。Aさんが画鋲の入った靴を持って助けを求めた際も、「画鋲は学校の備品だからもらっておく」と冷たく言い放っただけで、事実関係の調査や加害生徒への指導は行われませんでした。

    転校、そして悪化する症状

    Aさんは耐えきれなくなり、Y中学を転校。しかし、いじめによる心の傷は深く、転校先でも頭痛や腹痛、吐き気などの症状に悩まされ、不登校に。心療内科を受診した結果、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されました。


    Aさんはその後も転校を繰り返しましたが、学校生活に馴染むことができず、解離性同一性障害を発症。別人格が現れるようになり、過去のいじめの記憶に苦しめられるようになりました。そして、高校2年生の夏、Aさんは自ら命を絶ってしまったのです。

    裁判の争点と双方の主張

    原告は、Y学園、理事長Y1、校長Y2、担任Y3教諭の4名を被告とし、損害賠償を求めました。裁判では、以下の点が争点となりました。


    いじめの事実認定
    原告側は、Y中学で組織的、継続的な、悪質ないじめがあったと主張。被告側は、生徒間の些細なトラブルであり、いじめはなかったと反論しました。


    学校側の責任の有無と範囲
    原告側は、担任だけでなく、校長、理事長にも監督責任があると主張。被告側は、いじめの事実を認識しておらず、また仮に認識していたとしても、自死との因果関係はない、原告の監督責任もあると反論しました。


    損害賠償額の妥当性
    原告側は、Aさんの逸失利益、慰謝料、治療費、葬儀費用、原告自身の慰謝料などを含めた損害賠償を請求。被告側は、その金額は過大であると反論しました。

      裁判所の詳細な判断と判決内容

      裁判所は、膨大な証拠と証言を精査し、以下のように判断しました。


      いじめの認定
      裁判所は、本件6名による行為は、悪質かつ陰湿な「いじめ」に該当すると認定。Aさんの精神的苦痛は甚大であったと判断しました。


      学校側の責任
      裁判所は、Y3教諭はAさんから相談を受けていじめの事実を認識していた、あるいは認識できたにもかかわらず、適切な対応を怠ったと判断。また、Y1理事長とY2校長も、監督責任を果たしていなかったとして、学校法人Y学園とともに賠償責任を負うとしました.


      因果関係の認定
      裁判所は、Y中学でのいじめとAさんの解離性同一性障害、自死との間に因果関係があると認定。Y中学転校後の出来事もAさんにとってストレスであったことは認めつつも、Y中学でのいじめがAさんの精神状態に決定的な影響を与えたと判断しました。


      過失相
       一方、裁判所は、原告にもAさんの自殺を防ぐ注意義務違反があったとして、過失相殺を適用。賠償額は請求額から減額されました。


      最終的に、裁判所は原告側の請求を一部認め、被告側に約1491万円の支払いを命じました。

        勝敗と理由のまとめ

        この裁判は、原告側の一部勝訴となりました。


        勝訴理由
        裁判所は、Y中学でのいじめとAさんの解離性同一性障害、自死との因果関係、そして学校側の組織的な対応の不備を認定したため。原告の訴えは一部認められました。


        敗訴理由(減額の理由)
        原告自身にもAさんの異変に気付きながら、自殺を防止するための十分な措置を講じなかったという過失があったと判断され、過失相殺が適用されたため。請求額の全額は認められませんでした。


        この判例は、いじめの深刻さ、そして学校、ひいては社会全体がいじめから子どもを守る責任の重さを改めて私たちに突きつけるものになりました。いじめは決して許されるものではなく、早期発見と適切な対応が不可欠です。

          自殺になって初めて大人たちが対応をして本件について話をしているが、本当はこうなる前に大人たちが介入すべきだったはず。
          そうしたかった大人たちもいるだろうが、ずっと監視しておくわけにもいかないし、大小さまざまな問題が同時並行で発生しているであろう学校でいじめ問題だけに注力することも難しいだろうし…。
          同じことが繰り返されぬようにしていくしかない。