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亡くなった娘への誹謗中傷、母の闘い ~見えない相手との法廷劇~
  • 民事裁判

亡くなった娘への誹謗中傷、母の闘い ~見えない相手との法廷劇~

公開:2025/09/16

更新:2025/09/16

判例奇譚編集部

亡き娘への悪意ある言葉、それを巡る母の静かなる怒りが法廷で火花を散らす。見えない加害者との戦いは、息子の無念を晴らしたい一心で、母を想像もつかない壮絶な戦いへと駆り立てていく。果たして、真実は白日の下に晒されるのか。母の闘いの結末に、あなたの心も揺さぶられるはずだ。

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

娘への誹謗中傷と母の決意

2022年5月23日、Aさんの愛娘Dさんは自ら命を絶ちました。深い悲しみに暮れるAさんの目に飛び込んできたのは、娘のX(旧Twitter)アカウントに届いた心無い返信の数々。「死ね」「消えろ」といった言葉が並んでいました。


Aさんは、この誹謗中傷が娘をさらに追い詰めたのではないかと考え、加害者を特定し、謝罪と賠償を求めることを決意します。


Aさんは弁護士のCさんに相談。娘のアカウントに残された誹謗中傷のスクリーンショット画像を証拠として提出しました。この画像には、問題の返信と共に、相手方のアカウント名が表示されていました。

しかし、返信元の表示や投稿日時といった、通常表示されるはずの情報が欠けていました。


Cさんは、このアカウントの情報開示を求める仮処分をX(旧Twitter)社に申し立てます。裁判所はこれを認め、Aさん側は、一定期間にこのアカウントにログインした際のIPアドレスの情報を得ることができました。


開示されたIPアドレスを元に、AさんとCさんは、プロバイダB社を相手に発信者情報開示請求訴訟を起こします。そして、ついに契約者であるB氏を特定。


B氏と同居の家族3名と共に、Aさんは慰謝料請求訴訟(第一事件)を起こしました。

請求額は、慰謝料200万円、弁護士費用20万円、発信者情報開示請求にかかった費用79万6000円の合計299万6000円でした。

法廷でのAさんとB氏らの主張

Aさん
「B氏らは、娘の死後、Twitterで誹謗中傷を繰り返しました。娘への愛と敬意を踏みにじられた私は、深い精神的苦痛を受けました。B氏らには慰謝料を支払う責任があります」


B氏ら
「私たちが投稿したという証拠はありません。Aさんが提出した画像は捏造されたものです。そもそも、私たちはそのアカウントを使ったこともありません。私たち家族構成や普段の生活を考えれば、私たちが投稿した時間帯に自宅のインターネット回線を使っていたとは考えられません」


B氏らは、Aさんが提出した画像の不自然さを改めて指摘。さらに、自分たちの家族構成や、インターネット回線、携帯電話の使用状況などを詳細に説明し、自分たちが投稿した時間帯に自宅にいた可能性が低いこと、自分以外の誰かがWi-Fiを不正利用した可能性などを主張しました。


また、問題のアカウントには複数のIPアドレスからのログイン履歴があり、開示されたIPアドレスが誹謗中傷投稿時に使われたものとは断定できないと反論しました。


裁判所は、Aさんが提出した画像だけでは、B氏らが投稿したと断定するには証拠不十分と判断。Aさんの請求は棄却されました。

反訴、そして泥沼の法廷へ

第一事件の敗訴後、今度はB氏らからAさんと弁護士Cさんへの反訴(第二事件)が起こされます。


B氏ら
「AさんとCさんは、私たちが犯人ではないと知りながら、訴訟を起こしました。私たちの家族構成やインターネット環境を調べれば、容易に私たちが犯人ではないと分かったはずです。にもかかわらず、発信者情報開示請求や訴訟を起こされ、私たちの名誉を傷つけられ、平穏な生活を奪われました。慰謝料220万円を支払うべきです」


B氏らは、AさんとCさんは、画像の不自然さ、IPアドレスや家族構成の情報から、自分たちが犯人ではないと容易に認識できたはずだと主張しました。


特にCさんは誹謗中傷問題に詳しい弁護士であり、なおさら慎重であるべきだったと非難しました。インターネット上では、すでに画像が捏造されたものだという指摘もあったと主張しました。


AさんとCさん
「私たちは、B氏らが犯人ではないと容易に認識できたとは思いません。発信者情報開示請求の手続きでも、画像が捏造されたという指摘はありませんでした。また、インターネット上の情報は必ずしも信頼できるものではありません」


裁判所は、AさんとCさんがB氏らを訴えたことが、裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく不当であったとは認められないと判断。B氏らの請求も棄却されました。

原告・被告双方の請求棄却

第一事件(Aさんvs B氏ら)
Aさんの請求棄却。B氏らが投稿したという確たる証拠がないため。


第二事件(B氏ら vs Aさん・Cさん)
B氏らの請求棄却。Aさん・CさんがB氏らを訴えた行為が違法と言えるほど不当なものではないため。


この事件は、インターネット上の誹謗中傷の立証の難しさ、そして、訴訟が当事者双方に大きな負担をかけることを改めて示す結果となりました。

インターネット上の証拠の不確実さか…。
特定されないようにありとあらゆる方法が沢山あるのだろう。
SNSでの誹謗中傷問題に終わりがくることはあるのだろうか…