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ラーメン店 vs 不動産会社 ~時効取得と権利濫用を巡る攻防~
  • 民事裁判

ラーメン店 vs 不動産会社 ~時効取得と権利濫用を巡る攻防~

公開:2025/09/30

更新:2025/09/30

判例奇譚編集部

大阪の喧騒に包まれた繁華街。夜空に燦然と輝く「判例奇譚ラーメン(仮名)」の巨大な龍の看板は、長年、多くの人々の目を楽しませ、この街の活気を象徴する存在だった。しかし、その派手やかな龍の姿が、隣接する土地を所有する不動産会社との間で、静かなる、しかし熾烈な法廷劇の幕を開けることになる。

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

再開発計画が火種に:看板と庇の「越境」問題

物語の発端は、不動産会社が描いた都市再開発計画だった。


その計画を進める上で、不動産会社は衝撃の事実に直面する。なんと、判例奇譚ラーメンの象徴である龍の立体看板、そして店先を飾る庇の一部が、自らの所有する土地に深く入り込んでいるではないか。


不動産会社は、これを「越境」と断じ、看板と庇の撤去を強く要求。しかし、判例奇譚ラーメン側は、「長年にわたり、この場所で商売をしてきた。時効によって、この越境部分は我々のものになったはずだ!」と、真っ向から反論。


こうして、二者の間には、法廷という舞台での、壮絶な応酬が繰り広げられることになった。

争点1:時効取得は成立するのか? ― 土地の「占有」、所有の「意思」、そして「過失」の行方

判例奇譚ラーメンが主張する「時効取得」が認められるのか否か。これが、法廷で最も激しく議論された点だった。時効取得が成立するためには、厳しい三つの条件を満たす必要があった。

土地の「占有」はあったのか?

判例奇譚ラーメン側は、看板が設置されている土地の下のスペースは、長年、店舗の客が利用しており、また、建物の外壁も現状維持してきたのだから、それは自分たちが「排他的に支配」してきた証拠だと主張した。


しかし、不動産会社は、看板や庇は単なる「工作物」に過ぎず、通行人も自由にその下を通れるのだから、「排他的な占有」とは言えないと反論。特に、庇のビニールカーテンが常に閉まっていたわけではないこと、看板下の通路が第三者にも利用されていたことなどが、議論の的となった。

「所有の意思」はあったのか?

判例奇譚ラーメンは、


「長年この場所で営業を続けてきたのだから、当然、この土地が自分たちのものだと信じて疑わなかった」


と主張した。
しかし、不動産会社は、


「土地を購入する際に、すでに越境している事実に気づけたはずだ。つまり、真に所有する意思があったとは言えない」


と、厳しく指摘。


過去の不動産鑑定評価書や図面が証拠として提出され、鑑定評価書に越境による土地の価値の低下が記されていないこと、図面上の建物の大きさが現状とほぼ変わらないことなどが、判例奇譚ラーメンの主張を裏付けるかのように見えた。

「過失」はなかったのか?

判例奇譚ラーメンは、


「越境していたこと自体、我々の過失ではなかった」


と主張。
だが、不動産会社は、


「少し調べれば、境界を示す金属レールなど、越境している事実に気づけたはずだ」


と、判例奇譚ラーメン側の調査不足を厳しく追及した。さらに、判例奇譚ラーメンの前身企業の関係者が、越境の事実を知っていたのではないか、という疑惑まで浮上した。

争点2:「権利の濫用」にあたるのか?

時効取得が認められなかったとしても、もう一つの大きな論点が浮上した。


それは、不動産会社による「権利の濫用」の有無だった。判例奇譚ラーメン側は、看板や庇の撤去は、自分たちの営業に計り知れない打撃を与えると訴えた。


一方、不動産会社は、再開発計画は街の発展に不可欠であり、越境物を撤去することは、その計画遂行のために当然の権利だと主張した。

裁判所の判断:詳細な事実認定と法的解釈の末に

裁判所は、提出された数々の証拠と証言を、まるでパズルのピースをはめるかのように、丹念に、そして詳細に事実を認定していった。


外壁部分については判例奇譚ラーメンが、その外壁直下の土地を店舗敷地の一部として、長年にわたり「排他的に支配」してきたと認定。


客の利用、そして建物の維持という事実から、長年の占有、所有の意思、そして越境の過失がなかったと判断。ついに、この外壁部分の土地の所有権は、判例奇譚ラーメンのものとなった。


しかし、看板と庇については、状況は異なった。これらは建物の「主要構造部分」とは言えず、通行人も利用できるスペースであったことから、「排他的な占有」とは認められなかった。


さらに、過去の図面や証言から、判例奇譚ラーメン側が越境の事実に気づけた可能性も指摘された。時効取得は不成立。看板と庇は、残念ながら撤去せざるを得なくなった。


さらに、権利の濫用についても、裁判所は不動産会社の主張を支持した。街の発展を目指す再開発計画の公益性、そして繁華街における土地利用の重要性を考慮すれば、看板や庇の撤去を求めることは、権利の濫用にはあたらないと判断したのだ。


判例奇譚ラーメン側が主張する営業上の不利益よりも、不動産会社の再開発によってもたらされる街全体の利益の方が大きい、という判断が下されたのである。

判決:一部勝訴、一部敗訴 ― 複雑な境界線紛争の現実

こうして、ラーメン店 vs 不動産会社、看板撤去をめぐる法廷劇は、一つの幕を下ろした。


原告(不動産会社)
一部勝訴、一部敗訴。外壁部分の土地の所有権という、当初の目的の一部は失ったものの、看板と庇の撤去という目的は達成された。


被告(判例奇譚ラーメン)
一部勝訴、一部敗訴。長年の営業が認められ、外壁部分直下の土地の所有権は勝ち取ったものの、街のシンボルであった龍の看板と庇は、手放さなければならなくなった。


この判決は、都市部で起こりがちな境界線紛争の複雑さを、そして時効取得という制度が、いかに厳格な条件のもとでしか成立しないのかを、改めて浮き彫りにした。


さらに、個人の権利と、社会全体の利益との間でどのようにバランスを取るべきか、という普遍的な問いも投げかけている。


占有の範囲はどこまでか、所有の意思はどのように証明されるのか、そして権利を行使する上でどこまでが許されるのか。この物語は、専門的な法的知識と、緻密な事実認定の重要性を、私たちに静かに、しかし力強く示しているのである。

    時効取得の成立条件の厳しさと、都市部における土地利用の複雑さが浮き彫りになった事件であったな。象徴的な看板の撤去は残念だが、再開発による街の発展という側面も理解はできる。個人の権利と公共の利益のバランスの難しさを考えさせられる、興味深い内容だった。