- 民事裁判
児童相談所職員の内部通報と懲戒処分~正義はどこに?~
舞台はとある市。児童相談所で働く一人の職員、原告が、上司や市を相手に法廷闘争を繰り広げています。事の発端は、彼が担当外の児童虐待事案について内部通報を行ったことでした。市は彼を懲戒処分とし、異動を命じましたが、原告は納得せず、裁判を起こしたのです。 5年以上にも及ぶ争いは、一体どのようなものだったのでしょうか。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
市 vs 職員、5年越しの法廷闘争
第一幕:虐待の影と内部通報
2015年、原告が勤務する児童相談所に、ある児童養護施設の施設長による性的虐待の疑いが浮上します。
原告は独自に調査を始め、施設長への事情聴取の現場を目撃したことをきっかけに、担当外の児童の情報にアクセスするようになりました。そこで彼は、虐待の疑いに関する母親からの相談が数ヶ月も放置されていた事実を知り、衝撃を受けます。
原告は市の公益通報窓口である弁護士に連絡し、内部通報を行いました。しかし市の調査結果は「児相の対応に問題はなかった」というものでした。納得できない原告は、施設長の逮捕後、改めて内部通報を行います。この時、彼は証拠として児童記録のコピーを持ち出しました。これが後に、大きな争点となるのです。
第二幕:懲戒処分と異動、そして別訴へ
市は原告の行為を問題視し、担当外の児童記録の閲覧、記録コピーの持ち出しと廃棄、新年会や組合交渉での不用意な発言を理由に、彼を停職3日の懲戒処分としました。さらに、原告は別の部署へ異動を命じられます。
原告は異動先でも納得できず、懲戒処分の取り消しを求めて別途訴訟を起こします(別訴)。裁判所は、記録コピーの持ち出しと廃棄は確かに市の規則違反だが、他の行為は懲戒事由に当たらないと判断。
さらに、持ち出しも内部通報のためであり、廃棄も悪質ではないとして、停職3日という処分は重すぎると結論付け、懲戒処分を取り消しました。市は控訴しましたが、判決は覆りませんでした。
第三幕:訓戒処分と和解決裂、新たな火種
別訴に勝利した原告でしたが、市は懲戒処分を取り消した一方で、記録の持ち出しと廃棄を理由に「厳重文書訓戒」を行いました。これは懲戒処分ではないものの、原告にとっては不名誉な処分でした。
一方、原告は市の違法な懲戒処分と異動によって精神的・経済的損害を被ったとして、市に損害賠償を求める訴訟を起こしていました(本訴)。裁判所は和解を勧告し、市も和解金120万円を支払うことで合意しそうだったのですが…
事態は急転します。
市議会が和解案を議決する際に、「児童記録の不適切な閲覧や個人情報の漏洩で市民の信頼が失墜した」という付帯決議を行ったのです。原告はこれに激怒し、和解を拒否。本訴は継続されることになりました。
最終幕:裁判所の判断、そして未来へ
本訴で裁判所は、市の懲戒処分は一部の行為を懲戒事由に該当すると誤認したこと、また処分内容が重すぎることなどから違法だと判断し、市に損害賠償を命じました。
異動についても、最初の異動は違法だが、その後の異動は適法だと判断しました。訓戒処分と付帯決議については、違法ではないと判断されました。
この判決は、内部通報者保護の難しさを改めて浮き彫りにしました。原告は市の不正を正そうと行動したにもかかわらず、様々な不利益を被りました。
正義を貫くことの難しさ、そして組織の中で声を上げる勇気を持つことの大切さを問いかける、この裁判の行方は、多くの人の心に深く刻まれることでしょう。
まとめ
この事件は、内部通報者保護の重要性と、地方自治体における情報管理のあり方を問うものです。
原告の行為は一部規則違反ではあったものの、公益通報という目的を考慮すれば、懲戒処分は重すぎると判断されました。
また、市議会の付帯決議は、原告の名誉を傷つける可能性があるものの、表現の自由の範囲内であり違法ではないと判断されました。この事件を教訓に、より良い制度設計が求められています。
物語の元になった判例
判例PDF|裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/921/092921_hanrei.pdf
そもそも、組織を相手に訴訟を起こすというのは相当な覚悟だっただろうな。
色々な法律、規約のせいで論点がずれていき、正義が悪になる瞬間もあるんだなと実感した。
