
- 民事裁判
教壇に散った熱血教師、その死の真相は?
今日は、重い事件の控訴審だ。亡くなったA先生は、長年教壇に立ち、生徒指導に情熱を燃やしてきたベテラン教師だった。しかし、彼は自ら命を絶ってしまった。残された奥さんは、A先生の死は、過酷な勤務が原因の公務災害だと訴えている。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
原審
控訴人である奥さんは、「夫は、新しい学校に赴任してから、問題を抱えた生徒の指導や、部活動の顧問、それに加えて同好会の立ち上げと、仕事量が一気に増えました。長時間労働で疲弊し、精神的に追い詰められていったんです。」と、涙ながらに訴える。
被告である地方公務員災害補償基金京都府支部長は、「A先生は、真面目で責任感が強い性格でした。確かに仕事熱心でしたが、通常の教師の業務であり、うつ病を発症させるほどの過重な負担があったとはいえません。家庭の問題で悩んでいたことも、発症の原因として考えられます。」と反論する。
原審では、奥さんの訴えは認められなかった。しかし、私は、改めて証拠を精査し、関係者の証言を検討することにした。
熱血教師
A先生は、赴任した年の4月から、学級担任、部活動顧問に加え、生徒の要望に応えてバスケットボール同好会を立ち上げた。熱血漢のA先生のことだ、きっと寝る間も惜しんで生徒のために尽くしたに違いない。
奥さんの証言によると、A先生は、赴任当初から、問題行動が目立つ女子生徒Bの指導に悩んでいたようだ。他の生徒にも悪影響を及ぼし、学級運営が困難になっていく中で、A先生は、これまでの指導方法が通用せず、自信を失っていったという。
さらに、バスケットボール同好会は、正規の部活動ではないため、練習場所の確保や用具の準備など、A先生が一人で奔走しなければならなかった。休日も練習や試合でほとんど休みが取れず、疲弊していった様子が目に浮かぶ。
A先生は、体育大会前に担当生徒が怪我をさせる事故を起こし、文化祭の準備ではミスが発覚するなど、立て続けにトラブルに見舞われた。心身ともに疲れ果てていたであろうことは想像に難くない。
A先生の時間外労働時間は、月80時間を超えることも珍しくなかった。これは、通常の教師の業務をはるかに超える過重な負担だ。
奥さんは、「夫は、私に仕事の愚痴をこぼすようになり、食事中もぼんやりとしていることが増えました。夜も眠れない日が続き、食欲もなくなり、体重も減っていました。」と、当時のA先生の異変を訴える。
A先生は、ついに精神科を受診し、「抑うつ状態」と診断された。3ヶ月の病気休暇を取得したが、症状は改善せず、自ら命を絶ってしまった。
教壇にすべてを捧げ、生徒のために尽くしたA先生
私は、A先生の性格や家庭環境についても考慮した。確かにA先生は、真面目で責任感が強い性格だったかもしれない。しかし、それは、多くの教師に共通する特徴であり、うつ病を発症するほどの特異な性格とは言えない。
長男の病気や奥さんとの関係も、A先生を悩ませていた可能性はある。しかし、それらは、A先生がうつ病を発症する以前から存在していた問題であり、直接的な原因とは言えないだろう。
私は、A先生の死は、過酷な勤務が原因で発症したうつ病による自殺であり、公務災害に当たるという結論に至った。
教壇にすべてを捧げ、生徒のために尽くしたA先生の死は、あまりにも悲しい。彼の死を無駄にしないためにも、教員の労働環境を改善し、このような悲劇を二度と繰り返さないようにしなければならない。
判決結果
結果
原告である奥さんの訴えが認められ、A先生の死は公務災害と認定された。
理由
A先生は、赴任後に業務内容が大幅に増加し、長時間労働や問題を抱えた生徒への対応などで強いストレスにさらされていた。これらの過酷な勤務状況が、うつ病の発症と自殺に繋がったと判断されたため。
物語の元になった判例
判例PDF|裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/347/083347_hanrei.pdf
生徒の為にとやり甲斐を感じていても、いつの間にか心身ともに疲弊してしまっていることに気づかずに進み続けてしまうのを周りが気づいて止めることも難しいのだと思う。
このような状況に陥らない体制、制度が明確になっていればいいのだが…