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見過ごされた頭痛、奪われた日常
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  • 民事裁判

見過ごされた頭痛、奪われた日常

公開:2025/05/26

更新:2025/05/26

判例奇譚編集部

77歳女性、突然の頭痛と吐き気で救急搬送。2度の受診も改善せず、3度目の搬送で重症発覚。家族は病院の対応に疑問を抱き提訴。果たして、病院側の責任は問われるのか?早期発見で防げたかもしれない悲劇、その真相とは。

この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。

突然の頭痛

9月13日、突然の頭痛と吐き気に襲われました。
今まで経験したことのないような、激しい痛みでした。きっとおさまるだろうと我慢を続けるも、痛みは悪化するばかり。

9月15日、心配した夫は、私を市立病院の救急外来へ連れて行ってくれました。
A医師は、私の訴えを丁寧に聞いてくれました。

「2日前から頭痛と吐き気が続いていて、今まで経験したことがないくらいひどいんです。」

と訴えると、A医師はいくつかの質問をし、症状を記録してくれました。その中には『今まで経験したことがない頭痛』『頻度と程度が増す頭痛』『50歳を超えてから初めての目立った頭痛』など、何かしらの異常を疑うべき危険なサインが含まれていました。

A医師も、私の症状が何かしらの異常に当てはまることを認識していたはずです。
しかし、神経系の検査で異常が見つからなかったこと、そして頭痛が急に始まったわけではないことから、A医師は重症性が低いと判断したそうです。

診断は『緊張性頭痛』という、いわゆる一般的な片頭痛の類いでした。
痛み止めと吐き気止めを処方され、私は病院をあとにしました。

二度目の受診

帰宅後も頭痛は治まらず、むしろ悪化の一途をたどりました。
9月16日は一日中横になって過ごすしかなく、17日の朝には後頭部の激しい痛みと全身の脱力感に襲われました。夫は救急車を呼び、私は再び市立病院へ運ばれました。

二度目の診察はB医師でした。
ストレッチャーに乗せられたまま診察室へ入るやいなや、こう伝えました。

「2日前にこの病院で診てもらったんですが、薬を飲んでも良くならないんです。」

B医師は、私が2日前に受診した記録、そして救急隊員からも『後頭部の痛みと全身の脱力感がある』と引き継ぎを受けているにもかかわらず、通常、行うべき歩行状態の確認をすることもなく、私をストレッチャーに寝かせたまま診察を行いました。

いくつかの検査を行いましたが、神経系の異常は見当たらず、私の訴えは降圧剤の変更によるものだろうと考え、再び痛み止めを処方し帰宅を指示しました。
B医師も重症性は低いと考えていたようです。

容態急変

帰宅後、夕方に食事を摂り、痛みに耐えながら就寝しました。
しかし、その翌日の9月18日未明、私の容態は急変しました。高熱が出て意識が朦朧となり、夫は慌てて三度目の救急要請をしました。

病院へ運ばれた私は、すぐにCT検査を受けました。そこで、ついに病名が判明しました。

『慢性硬膜下血腫』と『脳梗塞』

緊急手術が行われましたが、既に血腫が脳を圧迫し、手遅れの状態でした。私は意識障害と体の麻痺という重い後遺症を抱えることになってしまったのです。

私たちの闘い

夫と息子は、病院の対応に納得できませんでした。

「なぜ、最初の診察でCT検査をしなかったのか!」

「なぜ、二度目の診察で症状が悪化しているにもかかわらず、きちんと検査をしてくれなかったのか!」

私たち家族は、病院側に落ち度があったとして、事の真相を求めて裁判を起こしました。

裁判所の判断

裁判では、病院側の対応が適切だったのかが争点となりました。
双方の主張を聞き入れた裁判官は、医師の診察記録や医療の専門家の意見を元に、B医師の診察に問題があったと判断しました。

「頭痛の診察では、命に関わる二次性頭痛(※1)の可能性をまず除外しなければならない。」

「B医師は、患者さんの年齢、症状、A医師による初診などを考慮すると、慢性硬膜下血腫の可能性をもっと真剣に考えるべきだったが、一次性頭痛(※2)と診断をしていました。」

「CT検査を行っていれば血腫を発見でき、適切な治療で後遺症を防げた可能性が高い。」

これに対し、病院側も反論。

「症状は急激に悪化したため、最初の診察でCTを撮っても結果は同じだった。」

「高齢であるほど慢性硬膜下血腫は重症化しやすく、後遺症を防げたかは不明だ。」

しかし、裁判官はこれらの主張を認めることはありませんでした。

そして判決

裁判の結果、病院側に損害賠償を命じ、私たちは勝訴しました。
B医師は私の症状を軽視し、適切な検査を行わなかったため、後遺症を防ぐ機会を逃したと判断したのです。

病院の対応の遅れによって、私の人生は大きく変わってしまいました。この出来事は、医療現場では一瞬の判断が患者の人生を左右する可能性があることを証明しているのです。

(※1)二次性頭痛・・・何か他の原因によって引き起こされる二次的な頭痛のこと。

(※2)一次性頭痛・・・原因は頭痛そのもので、一般的な片頭痛などを指す。

オジサンの感想

私たちは医師が下した診断を否定することが難しい。信用するしかないのだ。それでも自分の身体の異変は自分が一番わかっているが、何がどう悪いのかを一般の人は言語化するのも難しい。そうすると医師にもうまく伝えられない。しかし、全ての患者に対してCT検査を行うこともきっとできない…医師の診断とは本当に重いものだと改めて感じた。