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- 民事裁判
献身の先に
教員、公務員…夢を抱く5人の若者の人生を狂わせたのは、とある宗教団体だった。巧妙な勧誘の手口、 献身という名の奴隷的労働、霊感商法。被告の弁護人へ投げかけた裁判長からの質問の真偽とは。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
日常
教員のダイチ、県職員のニイナ、ピアノ講師のミツネ、フリーターのマサシ、ショウゴはシェフを目指す専門学生。
未来への漠然とした不安を抱えながらも、それぞれ異なる道を歩み、それぞれの日常を過ごしていた5人の人生は、ある宗教団体との出会いによって大きく変わってしまう・・・。
勧誘
ダイチは大学時代の旧友に誘われ、『人生を考える』をテーマにしたセミナーに足を運んだ。
ニイナは職場の先輩に日々の悩みを相談するうちに、先輩の活動に興味をもち始めた。身を委ねるがまま、気づけば、集会に参加していた。
ミツネは自宅に訪れた販売員から印鑑を購入。度々訪れる販売員に心を許し始め、少人数の集会にも参加する。気づけば毎週、顔を出すようになっていた。
マサシは街頭アンケートに足をとめた。『幸せとは何か?』人生に思い悩む彼にとっては揺さぶられるテーマ。アンケート担当者について行くと、気づけばそこはセミナー会場だった。
ショウゴは駅で『人生の真理』について尋ねられる。明るい将来を願う彼は、人生の先輩方から話を聞ける機会と捉え、集会に参加した。
彼らが参加したセミナーや集会は、知るも知らずも宗教団体が主催するもので、そのすべては『信仰』への入口だったのだ。
洗脳
神、霊界、原罪…。宗教的な言葉で彩られた講義。
巧妙なマインドコントロール。繰り返される儀式、閉鎖的な空間。教義は徐々に深まり、5人の思考は支配されていく。
そして、導かれるまま『献身』を誓っていた・・・。
重労
待っていたのは過酷な現実だった。
印鑑、壺、珍味など、様々な物品販売のノルマに追われる日々。低賃金、長時間労働、精神的苦痛・・・。誰がみても、そう思えるようなことも、5人にとってはこれが当たり前であり、使命感さえ覚えるほど教義が浸透していたのだ。
ダイチはビデオセミナー所長に、ニイナは街頭募金に、ミツネは印鑑や珍味の販売に、マサシは路傍伝道や物品販売に、ショウゴは勧誘活動に駆り出された。
5人の人生は、ただひたすらに宗教団体に搾取されていく。
「こんな人生、もう嫌だ。」
家族や周りの声にハッとさせられた5人は、いつの日かそう思うようになっていた。気づけば、あの出会いから、もう6年は過ぎていた・・・。
法廷
過ぎた時間は戻らない。それでも、5人は自分の人生を救うために決意した。
宗教団体を相手に、損害賠償を求める裁判を起こしたのだ。法廷で語られる、マインドコントロール、過酷な労働、献金強要、偽りのない真実たち。
「教義を広めるため。」
被告側弁護士は、そう言って全ての行為を正当化しようとした。
しかし、裁判長は鋭く反論する。
「事前説明のない献身生活、過酷なノルマ、低賃金。これは搾取ではないのか? 欺瞞ではないのか?」
被告側弁護士は口ごもり、明快な答えを避けた。団体の違法行為を認めたくない保身のための発言であることは、法廷にいた誰もが容易に感じ取れた。
判決
裁判所は、5人に対する損害賠償金の支払いを宗教団体へ命じた。
自由意志を侵害するマインドコントロール、献身という名の搾取的労働、不当な勧誘行為を認め、違法性が高いと判断した結果となった。
『約130〜320万円』
この賠償金は金額の大小に関わらず、彼らが失った青春、本来歩むべきだった人生に代わるものではない。彼らが経験した苦しみや心に刻まれた傷は、金銭ではとうてい埋められないものだ。
それでも、5人は共に前を向き、新たな人生を歩み始めた。
この判決は、彼らにとって新たな始まりを告げる鐘の音となっただけでなく、同じような苦しみを抱える人々に希望の光を灯すものでもある。
また、社会全体もこの裁判を契機に、宗教団体の不当な行為や法の下での責任を、改めて問い直し始めている。宗教的活動への世間の目は厳しくなり、政治との癒着への疑念についても注目が集まっている。確かに、風向きは変わりつつあるのだ。
5人の勇気ある行動は、社会的影響に関しても大きな課題を投げかけている。
物語の元になった判例
判例PDF|裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/535/006535_hanrei.pdfオジサンの感想
