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- 公法裁判
虹の彼方へ|ウガンダからの亡命
母国ウガンダでレズビアンであることを理由に迫害されたミレンベ。逃れた日本でも難民申請は却下され、裁判で闘うことに。厳しい状況を語るミレンベに対し、入国管理局は冷徹な反論を繰り広げる。果たして、ミレンベは日本で安全に暮らせるのか?希望と絶望が交錯する法廷ドラマ。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
異国の法廷
静かで厳かな法廷。そこに、一人の女性が不安げな表情で座っている。
彼女の名前はミレンベ。東アフリカに位置するウガンダ共和国からやってきた亡命希望者だ。向かい合う裁判官席には、ベテラン裁判長が座り、ミレンベを見つめている。ミレンベの隣には、日本語を話す通訳と、彼女の訴えを代弁する弁護人の姿がある。
裁判長は落ち着いた声で口を開いた。
「ミレンベさん、あなたはウガンダで迫害を受けたと訴えていますが、具体的にどのようなことがあったのですか?」
ミレンベは、緊張した面持ちで語り始めた。
「私は…レズビアンです。ウガンダでは、同性愛は違法とされ、人々の理解も得られません。私は、そのことで警察に逮捕され、ひどい暴行を受けました…」
苦痛の記憶
ミレンベの言葉に、法廷内は静まり返る。裁判長の隣に座る二人の裁判官も、真剣な表情で聞き入っている。
「警察に…逮捕された?詳しく教えてください。」
裁判長は、ミレンベが心の傷を再び開くのを促すように、優しく語りかけた。
ミレンベは、少し間を置いてから、当時の記憶をたどりながら語り始めた。
「2017年のことです。私がガールフレンドと暮らしていた家に、警察が突然やってきました。ドアを蹴破り、『レズビアン!』『マザーファッカー!』と叫びながら、私たちを殴りつけ、逮捕したのです…」
ミレンベの言葉は、次第に熱を帯びていく。
「警察署に連れて行かれると、そこには…私の母がいました。母が警察に通報したのです。私は警察官から、木の棒で何度も臀部を殴られました。歩くこともできないほどの痛みでした…」
ミレンベの証言は続く。警察署での3ヶ月にわたる監禁、農場での強制労働。そして、適切な治療を受けられずに悪化した傷跡。ミレンベは、言葉に詰まりながらも、必死に当時の状況を説明していく。
「ウガンダに帰れば、また同じ目に遭うでしょう。だから、日本に…逃げてきたのです。どうか…助けてください…」
入国管理局の反論
ミレンベの訴えを聞き終えた裁判長は、被告席に座る入国管理局の担当局員へと視線を向けた。
「入国管理局の見解を伺いましょう。」
当局の担当者は少し緊張した面持ちで立ち上がり、答弁を始めた。
「裁判長、我々は、ミレンベさんの主張を慎重に検討いたしました。しかしながら、ミレンベさんがウガンダで迫害を受けたという客観的な証拠は乏しいと言わざるを得ません。」
当局の担当者は用意してきた資料を手に取りながら、説明を続ける。
「ウガンダでは、近年、人権状況が改善されつつあります。2019年には人権執行法が施行され、警察官による人権侵害行為を抑制する取り組みが進められています。さらに、ミレンベさんが提出したウガンダの状況に関する報告書は、人権擁護団体によるものであり、客観性に欠ける部分があります。ウガンダ政府は、同性愛者に対する差別を助長しているわけではなく、むしろ、人権擁護活動にも一定の理解を示しています。」
ミレンベが提出した証拠を一つずつ反論していく当局の担当者。警察官による暴行の証拠となるはずの医療記録は、臀部以外の傷については記載がなく、ミレンベが主張するほどの暴行があったのか疑わしいと指摘する。
また、ミレンベがウガンダで指名手配を受けているという主張についても、具体的な証拠は何もなく、信憑性が低いと切り捨てる。
「総合的に判断いたしますと、ミレンベさんがウガンダに帰国した場合、迫害を受けるおそれがあるとは認められません。したがって、ミレンベさんの難民認定申請は棄却すべきと考えます。」
弁護士の熱弁
入国管理局の担当局員は、自信に満ちた様子で答弁を終えた。
法廷内には、苛烈な空気が漂い始める。
そんな緊迫した重々しい雰囲気を押し退けるように、ミレンベの弁護人は入国管理局の主張に真っ向から反論する。
「裁判長、入国管理局の主張はウガンダの『実情』を無視した、あまりにも一方的な見解です!」
弁護人は熱のこもった口調で『実情』を語りかける。
「ウガンダでは、依然として同性愛に対する差別や偏見が根強く存在しています。刑法では、同性愛は違法とされ、終身刑が科される可能性すらあります。ミレンベさんのように、同性愛者であることを理由に、警察から暴行を受けたり、不当に身柄を拘束されたりする事件が後を絶ちません。」
「入国管理局は、人権執行法が施行されたことをもって、ウガンダの人権状況が改善されたと主張しますが、それは現実を反映していません。人権執行法は、絵に描いた餅に過ぎず、実際には、同性愛者に対する迫害は、今もなお続いています。」
弁護人はミレンベの証言の信憑性を改めて強調する。
「ミレンベさんの証言は、具体的で詳細であり、客観的な証拠とも整合しています。ミレンベさんは、警察官から受けた暴行の傷跡を今もなお身体に残しています。これは、紛れもない事実です! 裁判長、ミレンベさんの訴えに耳を傾けてください。ミレンベさんはウガンダに帰れば、命の危険にさらされるのです。どうか、彼女に生きる道を与えてください!」
希望の光
裁判長は、原告と被告双方の主張を真剣な表情で聞き終えた。そして、静かに立ち上がり、閉廷を告げた。
「判決言い渡しは、後日行います。本日はこれにて閉廷します。」
数週間後、再び開かれた法廷。裁判長は、判決文を読み上げる。
「主文。出入国在留管理局長は、令和2年4月2日付けで原告に対してした難民の認定をしない旨の処分を取り消す━。」
裁判長の言葉に、ミレンベの目から涙が溢れ出した。
傍聴席に座っていた支援者たちも、安堵の表情を浮かべる。
判決は、ミレンベの訴えを全面的に認めるものだった。裁判所は、ウガンダにおける同性愛者を取り巻く厳しい状況を認め、ミレンベが帰国すれば迫害を受けるおそれがあるという判断を下した。
未来への一歩
ミレンベは裁判後、報道陣の取材に対し、涙ながらに語った。
「長い間、苦しくて、つらい日々でした。でも、今日、裁判所が私の訴えを認めてくれたことで、やっと、安心して日本で暮らしていける希望が持てました。この判決が、私と同じように、性的マイノリティであることを理由に苦しんでいる人たちの希望になれば嬉しいです。」
物語の元になった判例
判例PDF|裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/980/091980_hanrei.pdfオジサンの感想
