- 刑事裁判
嘘か誠か?SNSで輝く「億り人」の裏側 ~バイナリーオプション詐欺事件の顛末~
「たった2時間で12万円の利益!」「40万円が30秒で78万円に!」 SNSや出会い系アプリで、こんな甘い誘い文句を目にしたことはないだろうか。キラキラと輝く取引画面のスクリーンショットや、成功体験談が次々と投稿され、「自分にもできるかも」と心を動かされた人もいるかもしれない。しかし、その輝きの裏には、巧妙に仕組まれた詐欺という名の闇が潜んでいた。 今回、私たちが目にするのは、そんな甘い誘惑の末に、多額のお金を失ってしまった人々と、その手口を駆使した者たちの物語である。主役は、組織「C」に所属し、バイナリーオプション取引の情報商材販売を装って、人々からお金を騙し取った被告人AとB。彼らは、一体どのようにして「夢」を見せ、そして「現実」へと突き落としたのだろうか。
この物語は実際の判例を元にしたフィクションです。登場人物は全て仮名にしております。実際の判例を元にした物語としてお楽しみください。
嘘のトレーダー、架空の師匠
物語の始まりは、出会い系アプリやSNS。
そこでターゲットとなる若者たちに近づいたのは、架空のカリスマトレーダー「F」。Aは、この「F」になりすまし、あたかも自分がバイナリーオプションで大儲けしているかのように見せかけた。
「2時間で12万6800円の利益」「40万円投資して、30秒で38万円の利益」――。
これらの数字は、すべてAが作り上げた虚偽の記録だった。実際には、AはBの指導を受けながらも、そのような利益を上げる方法論など持ち合わせていなかったし、過去に100万円を支払ってその「方法論」を学んだという事実もない。しかし、彼はあたかも「秘密のスキル」を持っているかのように振る舞った。
そして、さらに巧妙だったのは、Bの存在だ。「F」の師匠、つまり「バイナリーオプション取引で稼ぐための究極のロジックを教える人物」として登場したのだ。Bは、ターゲットに対し、まるで未来を保証するかのように語りかけた。
「バイナリーオプションって何?みたいなところから教えていきますし。」
「僕たちって、別にお金を預けて、勝手に増やすでもなく、自分で稼げる知識、いわゆるスキルを身に付けて自分でトレードするんですよ。」
「何も知らない僕ができたんで,全然問題ないかな。」
まるで、誰でも簡単に成功できるかのような言葉。しかし、その実態は、ターゲットの懐に潜り込み、高額な「投資指導料」を騙し取るための布石だった。
騙しのテクニック:取引動画と「必勝法」
Aは、さらにターゲットを信用させるために、取引の様子を録画した動画を見せた。
「これ、画面録画なんですけど、今土日で、これなんですよ。私たちがやっているやつが。」
「これが今自分の口座の中に入っている。」と、まるで今まさに利益を上げているかのように説明した。
そして、Bは
「素人がやると50パー50パーなんですけど、どれだけ50パーを80パーセントとか90パーセントとか増やせるか。」
「それは知識とか経験で勝てるものなので。」
「まあ、逆に言えばそこまでもっていくのが僕たちのお仕事。」
と、まるで魔法のような「必勝法」の存在を匂わせた。
「僕たちは、一律で100でやっているんですよ。」
「100万円もらって教えてます。」
こうして、ターゲットに「自分もAのように稼げるようになる」と誤信させ、高額な投資指導料を要求した。中には、出会い系アプリで知り合ったばかりの若い女性Eさん(当時22歳)に対し、現金100万円を騙し取ったケースもあった。
名古屋市内のホテルのロビーラウンジや、自動契約機が設置された場所で、甘い言葉と偽りの成功体験が語られ、あっという間に大金がAとBの手に渡ったのだ。
自己啓発詐欺への二毛作
バイナリーオプション詐欺だけではなかった。AとBは、組織「C」において、自己啓発に関する助言サービスという名目でも、顧客から金銭を騙し取っていた。
この手口は、さらに悪質さを増す。自己啓発の契約を結ぶ際に、契約を解除できる「クーリングオフ」に関する説明を意図的に行わなかったのだ。さらに、契約が成立した後も、法令で定められた書面を交付しなかった
計画的、組織的、そして悪質
裁判所は、これらの行為を「計画的かつ組織的なものであり、全体として相当悪質」と断じている。AとBは、単独犯ではなく、組織の一員として、役割分担をしながら詐欺行為に及んでいた。架空のトレーダーを演じるA、その師匠として信用を悪用するB、そして彼らを統括するD。まるで、悪の組織の映画のワンシーンのようだ。
AとBは、それぞれ起訴された詐欺の被害額だけでも、合計250万円、350万円に上る。これは、彼らがターゲットにした若者たちの多くが、限られた資金の中で必死に稼ごうとしていたことを考えると、あまりにも重い現実だ。
執行猶予という「もう一度」のチャンス
しかし、裁判所は彼らに「執行猶予」という、社会復帰への道を開いた。その理由は、彼らが事件の首謀者ではなく、より上位の人物であるDの指示に従っていた従属的な立場にあったこと。そして、被害者への弁償や示談が成立し、多くの被害者から宥恕(許し)を得られていること。
さらに、AとBには前科がなく、若年であること。捜査や裁判の過程で、自分たちの行為の重さを深く理解し、真摯に反省している様子がうかがえたことも、考慮された。
現在、二人はそれぞれ新たな仕事に就き、家族の支えもある。裁判所は、彼らが今後再び罪を犯す可能性は低いと判断したのだ。
甘い言葉に隠された罠
この事件は、私たちにいくつかの重要な教訓を残す。
まず、SNSやインターネット上で見かける「簡単にお金が稼げる」という甘い言葉は、鵜呑みにしてはならないということ。特に、バイナリーオプションのようなリスクの高い投資は、専門知識や経験なしに手を出すと、思わぬ損失を招く可能性がある。
次に、「師匠」や「コンサルタント」といった肩書を持つ人物に安易に近づき、高額な情報商材や指導料を支払うことには慎重になるべきだということ。彼らの言葉を鵜呑みにせず、冷静にその実態を見極める必要がある。
そして、契約を結ぶ際には、必ず契約内容をしっかりと確認し、疑問点があれば専門家や信頼できる人に相談すること。特に、クーリングオフ制度などの消費者保護の仕組みについては、しっかりと理解しておくことが重要だ。
AとBは、懲役1年6ヶ月、懲役2年という判決を受けたが、執行猶予が付いたことで、社会の中で更生していく機会を与えられた。彼らが、この経験を糧に、二度と罪を犯すことなく、真面目に社会生活を送っていくことを願うばかりである。そして、この物語が、多くの人々が詐欺の被害に遭うことを防ぐ一助となれば幸いだ。
物語の元になった判例
判例PDF|裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/932/090932_hanrei.pdf
